シーサ事件

シーサ事件

シーサ事件の特許庁における異議申立段階の結論は次の通りです。

結論:登録第5040036号商標の商標登録を取り消す。

理 由

第1 本件商標

本件登録第5040036号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(A)のとおりの構成からなり、平成17年6月21日に登録出願され、第25類「Tシャツ,帽子」を指定商品として平成19年4月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標

登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第3324304号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(B)のとおりの構成からなり、平成6年12月20日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として平成9年6月20日に設定登録され、その後、平成19年3月13日に商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

同じく、登録第4637003号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(C)のとおりの構成からなり、平成14年4月24日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として平成15年1月17日に設定登録されたものである。

同じく、登録第1884350号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(D)のとおりの構成からなり、昭和47年3月25日に登録出願、第21類「かばん類、袋物」を指定商品として昭和61年8月28日に設定登録され、その後、平成8年8月29日及び平成18年7月4日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成19年11月14日に指定商品を第18類「かばん類,袋物」とする書換登録がされているものである。

同じく、登録第1925032号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(E)のとおりの構成からなり、昭和50年10月14日に登録出願、第21類「装身具、その他本類に属する商品、但し、かばん類、袋物、洗面用具入れを除く」を指定商品として昭和62年1月28日に設定登録され、その後、平成9年5月16日及び平成18年12月19日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

同じく、登録第2068537号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(F)のとおりの構成からなり、昭和47年6月27日に登録出願、第24類「運動用特殊衣服、運動用特殊ぐつ、その他の運動具、その他本類に属する商品」を指定商品として昭和63年7月22日に設定登録され、その後、平成10年3月24日に商標権の存続期間の更新登録がされているものである。以下、これらを総称するときは、単に「引用商標」という。

第3 登録異議申立の理由(要旨)

申立人は、本件商標は、その図形部分及び文字と図形との組合わせの外観において引用商標と類似するものであるから商標法第4条第1項第11号に該当し、広く知られた引用商標との関係において、申立人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるので商標法第4条第1項第15号に該当し、さらに本件商標は、需要者の間に広く認識されている引用商標と類似し、不正の目的をもって使用するものであるから商標法第4条第1項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきである旨主張し、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第37号証(枝番を含む)を提出している。

第4 本件商標に対する取消理由

当審において、商標権者に対し、意見書を提出する期間をを指定して、平成20年3月11日付けで次のとおりの商標登録の取消の理由を通知した。

(1)本件商標と引用商標1との類否について検討するに、本件商標は、別掲(A)のとおりの構成からなるところ、その構成においては、大きく太字で書された「SHI?SA」の文字及びその右肩上方に斜めに配されたシルエット風の動物と思しき図形(以下「本件図形」という。)が看者の注意を強く惹くものであって、該文字部分の下に小さく二段に書された「OKINAWAN  ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字部分は一見して何かの説明文の如くに看取され、いわば付記的な部分として認識し把握されるというべきである。そうすると、本件商標は、上記「SHI?SA」の文字部分及び本件図形が強く看者の印象に残るものといわなければならない。

しかして、本件図形は、動物の種類は直ちには理解できないものの、耳及び尾を有する動物が前脚を縮め後ろ脚を伸ばし、尾を右上方に伸ばして左方向に跳躍する状態をシルエット風に描いてなるものである。

他方、引用商標1は、別掲(B)のとおり、太字で書された「PUMA」の文字とその右肩上方に斜めに配されたシルエット風の動物と思しき図形(以下「引用図形」という。)とからなるものである。そして、引用図形は、本件図形と同様、動物の種類は直ちには理解できないものの、耳及び尾を有する動物が前脚を縮め後ろ脚を伸ばし、尾を右上方に伸ばして左方向に跳躍する状態をシルエット風に描いてなるものである。

以上からすると、本件図形と引用図形とは、上記特徴において極めて近似したものというべきである。加えて、本件商標と引用商標1とは、太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配してなる構成の特徴において共通するものであり、しかも、両欧文字部分も、縦線を太くし横線を細くした書体で表現されており、近似するものである。

してみれば、本件商標と引用商標1とは、その構成の軌を一にするものであり、時と処を別にして両者を観察した場合、共通の印象を看者に与えるものであって、外観上類似するものと判断するのが相当である。

また、本件商標の指定商品は、引用商標1の指定商品に包含されるものである。

(2)仮に、本件商標と引用商標1とが類似するものでないとしても、両商標は、全体として極めて近似した印象を看者に与えるものであることには変わりはない。

そして、申立人の提出に係る証拠によれば、引用商標は、いずれも申立人の業務に係るスポーツ用品、スポーツウェア等について使用する商標として、本件商標の登録出願時には既に取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められる。また、本件商標の指定商品と上記申立人のスポーツ用品、スポーツウェア等とは、商品の材質、需要者、流通系統、販売場所等を共通にする場合があるほか、いずれもファッション性が重視されるなど、密接な関係を有するものといえる。

そうすると、本件商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、周知著名となっている引用商標ないしは申立人を連想、想起し、さらに、該商品が申立人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。

(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号又は同項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録を取り消すべきものである。

第5 商標権者の意見(要旨)

前記第4の取消理由に対して、商標権者は、次のように意見を述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第10号証(枝番を含む)を提出している。

(1)本件商標

本件商標中「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字部分は、確かに、「SHI?SA」の文字よりは小さく表わされていることは認められるものであるが、何かの説明文や単なる付記的表示と言える程に小さい表示ないし看者の注意の至らない個所に記載されている表示とみることはできないものである。

また、本件指定商品中「Tシャツ」に使用される場合等においては、Tシャツの胸の部分に大きく表示される一般的な表示方法に従い、これらの文字も少なくとも3?7cm程度の大きさで表わされることとなり、特段に注意を喚起しない部分とまでは言うことができないものと考える。

したがって、本件商標は、本件図形部分、「SHI?SA」の文字部分のほか、「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字のいずれもが、看者の印象に残る部分と言わざるを得ない。

(2)本件商標と引用商標との対比

取消理由において、本件商標と引用商標1は、外観上類似すると判断しているが、その判断は、いずれも抽象的レベルでの共通点にすぎず、具体的構成や図形要素を著しく異にする本件商標と引用商標との類似性を裏付けるものとはいえないものと考えるため、以下にそれぞれの要素について検討する。

(ア)耳及び尾を有する動物が前脚を縮め後ろ脚を伸ばし、尾を右上方に伸ばして左方向に飛躍する状態をシルエット風に描いてなるとする点。

確かに、本件商標と引用商標1は,文字及び動物の図形かならなる商標である点では共通する。また、本件商標と引用商標2ないし5とは、引用商標2ないし5が動物の図形を表した商標であるから、本件商標が動物を表した図形を含む点では共通する。

しかしながら、これらの商標の図形部分についてみれば、四足動物をモチーフとしてデザインを行う場合に、飛びかかる図形とするようなことは極めて一般的に行われている手法の一つである。

すなわち、四足動物として知られる犬や猫は、歩く、走る、飛びかかる、という動作が基本的な性質のひとつである。したがって、何人かが、動作する四足動物を描こうとすれば、走ってたり、飛び上がろうとする姿を描こうとすることは、当然に思いつく、ごくありふれた手法の一つであり、却ってこれ以外の動作を行う姿を描こうとする方が珍しいものといえる。

また、例えば、走る四足動物を描こうとした場合には、どの位置(面)からみた図案を描くかということになるが、その場合の選択肢は、正面図、背面図、左右側面図、平面図、底面図及び斜視図のいずれかであり、基本的な手法は限られる。これらは動物のみならず、あらゆる物を描く際の基本的な手法である。また、この中でも、四足動物について言えば、側面から描くことは、最も分かりやすく四足動物の動作を表現する方法であるから、極めて自然で、ありふれた手法である。

よって、四足動物を側面から描く手法自体は、特段に独創的な描画の手法でないことは明らかである。

このようにして、描画対象を「飛びかかる四足動物」と決め、これを「側面」より描くこととした場合、誰が描いても、前足を前方に向け、地面を蹴った後の後ろ足が後方に伸びる姿として描かれ、また、特に、飛び上がった直後の四足動物であれば、上半身を上方にしてやや傾いた図案となる。

したがって、このように、一般的描画手法により描かれた四足動物の図案について、図案が有する特徴的な部分を何れも捨象して、すべて引用商標と類似ないし出所の混同を生ずるものとすれば、およそ第25類等に属する指定商品に関しては、実質的に、申立人に対して、飛びかかる四足動物を側面から描いた図案すべてについての独占排他権を認めることとなり、第三者の商標選択の余地を狭めるばかりか、第三者の権利ないし経済活動における表現を不当に制限するものとなる。

また、四足動物を側面から描いた図形商標は、現に第25類でも多数併存して有効に存続しており、引用商標について、あらゆる飛びかかる四足動物の側面図形について独占排他権を与える趣旨でないことは明らかである。かかる登録例の中には、本件商標が及ぶどころではない程度にまで、引用商標に近似した図案からなる商標も多数見受けられるところであるが、仮に、耳及び尾を有する四足動物が前足を前に向け、後ろ足を伸ばし、尾を右上方に伸ばした図案すべてに引用商標の排他的効力が及ぶとすれば、これらの四足動物の図案に係る商標登録は、いずれも無効とされるべきものか、或いは、引用商標の商標権と抵触するものとなり得るが、引用商標に係る商標権に対して、そのような効力を認める趣旨とは到底考え難い。

更に、このことは、標章の図形要素の細分化ウイーン分類表において、小分類3.1.1?15に付属する補助分類として、「A3.1.21飛び上がっているシリーズ1の動物」としてひとつのカテゴリーとして成立していること自体、そもそも、このようなデザイン手法が一般的であって、特段珍しいことではないことがうかがえるものであり、もとより多数の出願・登録が想定されるものであって、一商標権者にすべての独占排他権を与えることを想定しているものではないことがうかがえる。

すなわち、このような手法が用いられたネコ科等の四足動物の図形が施された商標は、IPDLにおける図形商標検索において、第25類における「A3.1.21」に限って検索しただけでも180件存在し、極めて多くの商標が存在していることがわかる(乙第1号証)。これらの商標のうち、特に商標構成文字の右側に飛びかかる四足動物を描いたものなどの一部を乙第2号証(乙第2号証の1ないし83)として添付するが、このようなデザインが一般的な手法であることを証明するものである。

そして、本件のように沖縄の守り神シーサーも四足で描かれるのが一般的であるから(乙第3号証及び乙第4号証)、このようなデザイン手法により、右から左へ向かって飛びかかるような図形とすることは、決して特殊ないし特異なデザイン手法ということはできず、本件商標権者のデザインがこのような手法を用いて描いた本件商標は、四足動物を側面から描いた図という点でのみ共通する引用商標と類似又は出所の混同を生ずるということは到底承服しかねるものである。

したがって、引用商標が需要者に広く認識されたものであるとしても、それは、特定の四足動物の側面図を選択した引用商標権者の営業努力によるものであって、単に四足動物の側面図という括りでみた場合には、図形要素としての識別力は比較的弱いものである。すなわち、引用商標を図形要素としてのみ見れば、四足動物の側面図であるから、特段に独創性が高いということができないことは明らかである。

このように、対象が四足動物であることや、側面から描いたこと自体は、商標の類否や出所の混同について、必ずしも重要な判断要素とならないのである。この点については、昭和58年審判第10864号のように、同じ四足のネコ科動物を側面から表した商標とを非類似のものとした例もある(乙第5号証)。

まして、本件商標は後述のとおりネコ科の四足動物ではなく、沖縄の守り神シーサを表しているものであることは明らかであるから、引用商標とは相紛れるおそれがないことは尚更である。

また、取消理由通知においては、本件図形について「動物の種類は直ちに理解できない」ものとされている。しかし、確かに種別までは特定する必要はないとは言えるものの、具体的に、“どのような四足動物なのか”、“その四足動物がどのように描かれているか” といった程度にまでは、その特定された内容、特定の手法などは、具体的な表示態様が対比検討され審理判断さればならないことは明らかである。

特に、看者が両商標に接した場合に、単に「これは四足動物だ」という認識をすると考えることは極めて不自然である。すなわち、需要者の有する通常の注意力からすれば、自ずから上述の具体的相違点に注意が向くと考えられ、少なくとも「猫だ」「犬だ」「ピューマだ」「シーサーだ」という程度のより具体的な四足動物の種別をもって認識するとみるのが自然と言わざるを得ず、両商標は、時と所を異にしてみても看者が紛らわしいと感ずるほど外観が類似しているとは認め難いものである。

以上に関連して、平成15年(行ケ)第564号東京高等裁判所判決(乙第6号証)においては、商標法4条1項15号に関連して、「本件商標の図形部分と引用商標とを外観について対比すると,両者は,走る馬に乗ったポロプレーヤーがマレット(長柄の槌)を操作している様を表したものであるという点においては共通する。しかし,その共通性は,馬,マレット及びこれを操作する馬上のポロプレーヤーという多分に抽象的なレベルにとどまり,図形としての表現態様という観点から見るときには…多くの点で異っている。…本件商標の図形部分と引用商標との間に見られる上記のような違いは,両図形が与える印象を全体として異なったものとしており,見る者に異なる印象,記憶を生じさせるものというべきである」との判断を示している。

本件商標も、また、引用商標とは、四足動物を側面から描いた図案であるという抽象的なレベルにおける共通性のみを有するものであり、図形としての表現態様という観点からは、上述のとおり多くの点で異なるものであることは明らかであるから、両図形が与える印象も自ずと全体として異なったものとなり、看者をして相当程度に異なる印象、記憶を生じさせるものに他ならない。

特に、取消理由通知書においては、商標法第4条第1項第11号の該当性に関しては、引用商標1との類似を指摘する中で、「動物の種類は直ちに理解できない」とされているものの、本件商標が、沖縄の守り神シーサを、引用商標がピューマ(puma)を表すものであることは、直接的に認識し把握されるものと考えられる。

すなわち、引用商標1についてみれば、文字部分の「PUMA」が、図形部分がピューマを表したものであることを直接的に認識せしめるものであり、これに接した看者は、自ずと引用商標1における図形がピューマ(puma)を表すものであると認識するとみるのが自然である。また、文字部分がなくとも、申立人の知名度より、その製品に付された商標がピューマを表したものであることは直接的に認識し把握されるものと考えられる。

一方、本件商標についても、文字部分の「SHI?SA」が沖縄の守り神であるシーサを表したものとして大きく表示されるとともに、「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字より、「沖縄の守り神、獅子犬」等の意味合いより、直ちに、沖縄の守り神であるシーサを想起されるとともに、このような各文字と一体的に、シーサの特徴を具備する図形部分が表わされていれば、これを直ちにシーサを表したものと直観せしめるとみるのが自然であり、このような態様に接した看者が、これをピューマないしその他の四足動物を認識し把握するとは到底考え難い。

したがって、引用商標から生ずる観念・イメージと、本件商標の観念・イメージとは、相紛れるおそれがなく、何ら共通するものではない。

そして、本件商標と引用商標における図形の具体的な構成を比較すると,

(a)本件図形においては、鬣(たてがみ)ないし首飾りと見受けられる図形部分が顕著に表現されているのに対して、引用商標にはそのような構成は皆無である。これは、沖縄の守り神シーサの特徴のひとつである。

(b)本件図形においては、むき出しにした牙の図形部分が顕著に表現されているのに対して、引用商標にはそのような構成は皆無である。これは、沖縄の守り神シーサの特徴のひとつであり、災いを威嚇する意味を有するというものである。

(c)本件図形においては、前足においても顕著に巻き髪(鬣)と見受けられる図形部分が表現されているのに対して、引用商標にはそのような構成は皆無である。これは、沖縄の守り神シーサの特徴のひとつである。

(d)本件図形においては、後足においても顕著に巻き髪(鬣)と見受けられる図形部分が表現されているのに対して、引用商標にはそのような構成は皆無である。これは、沖縄の守り神シーサの特徴のひとつである。

(e)本件図形の尻尾部分は、巻き髪を伴うまるみを帯びたシーサ独特の形状であるのに対して、引用商標においては、後端が僅かに太くなる線状であるピューマの尻尾を表現したと見受けられるものであり、顕著な相違を有する。

(f)その他、頭部や肩の大きさや足先の形状など、殆どの図形の各部分において、本件商標は、引用商標と相違する。
 なお、四足動物の腹部が細く表現されている点は、飛びかかる四足動物を忠実に表現する際、当該部分に骨がなく、肋骨部分に比して細くなる必然的な形状であるから、図形類否を判断する際の重要な共通要素とみることはできない。

以上、四足動物の図形部分のみを看ても、具体的構成要素において顕著な相違を有するものと言わざるを得ない。

次に、本件商標の大文字部分「SHI?SA」と引用商標1の大文字部分「PUMA」とは、称呼、観念において異なることは明らかであるばかりか、その構成文字並びにその組み合わせにおいて全く異なるものであることは明らかであり、一般的又は具体的な混同を生ずる余地のないものである。

たとえ、両商標の構成欧文字の語尾の「A」の文字の横線を細くし、他の欧文字部分の縦線を太い書体にしたからといって全体の欧文字自体が全く異なったものである限り、互いに近似するものとは到底言い得ない。

また、本件商標の構成における「OKINAWAN  ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」文字部分は本件商標独特の文字構成であって、斯かる構成文字部分は引用商標には存在しないものである。前述のとおり当該文字は、看者に対し注意を十分に与え、印象に残すものであるから、当該部分を敢えて捨象して本件商標を認識し把握するものとは考え難い。よって、当該部分を有しない引用商標1とは、類否を論ずるまでもなく、一般的又は具体的な混同を生ずる余地がないものである。

なお、文字部分の相違を含め、非類似とした事例としては、平成2年審判第22005号登録異議の決定や平成5年審判第20339号審決が存在する(乙第7号証及び乙第8号証)。

(イ)太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配してなるとする構成

両商標の図形部分についてみれば、四足動物をモチーフとしてデザインを行う場合に、飛びかかる図形とするようなことは極めて一般的に行われている手法の一つであることは前述したとおりである。

そして、対象を「飛びかかる四足動物」と決め、これを「側面」より描く場合、誰が描いても、前足を前方に伸ばし、地面を蹴った後の後ろ足が後方に伸びる姿として描かれ、また、特に、飛び上がった直後の四足動物であれば、上半身を上方にして傾いた図案となることも前述のとおりである。

さらに、太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配してなる構成を両商標を類似とする根拠の一つとされているものであるが、上述のように飛びかかる四足動物が斜めに描かれることが一般的(むしろ必然的)であることから、文字と組み合わせる際には、文字の右肩又は左肩の角を覆うように配することが自然である。側面図において、飛びかかる四足動物を描く場合には、右へ飛ぶか、左へ飛ぶかの二者択一であることからすれば、むしろ、まとまりのよい配置は、文字部分の左肩か右肩のいずれかしかない。

これは、特段に独創的な要素といえないことは明らかであり、当該手法がすべて引用商標の存在により排されるとすれば、不当に経済活動並びに表現活動を制限することとなる。敢えて言うならば、前記の角と反対方向を向いていたり、文字の下に斜めに描かれた動物が描かれたりするとなれば、図形全体としてまとまりよいデザインを構成することは極めて困難となり、全体のまとまりのよさを度外視して、敢えてそのように表わしたものの方がむしろ特異であるといえる。

したがって、欧文字の右肩上方に動物図形を表したことは、本件商標を引用商標と類似するとする根拠とはならないものと考える。

なお、そのような表現が一般的であることは、前述のとおり、多数併存する商標登録においても見受けられるものであり、特段に独創的な手法ではない。

例えば、登録第2313371号商標(乙第9号証)及び登録第2313372号商標(乙第10号証)は、図形文字等の右肩上方に左方向に跳躍している豹の図形を配してなるものである。

(ウ)欧文字部分が、縦線を太くし横線を細くした書体で表現されているとする点

縦線を太くし横線を細くした書体が極めて一般的な書体であることは明らかであり、独創性の高いフォントではないことは明白である。しかも、本件商標において、横線を補足してなるのは「A」の一文字のみであり、その他の欧文字における横線は、縦線と略同様の幅にて表されていることがわかる。

したがって、一部の欧文字を、縦線を太くし横線を細くした書体で表したことは、本件商標を引用商標と類似するとする根拠とはならないものと考える。

尚、そのような表現が一般的であることは、前述のとおり、多数併存する商標登録においても見受けられるものであり、特段に独創的な手法ではない。

以上、本件商標と引用商標1を含む引用商標との対比によれば、本件商標が引用商標とは相紛れるおそれのない非類似の商標であることは明らかである。

よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。

(3)具体的出所の混同のおそれについて

以上における本件商標と引用商標との対比検討に加え、以下においては、本件商標が、引用商標と具体的な出所の混同を生ずるおそれのあるものではない点につき述べる。

引用商標1ないし5は、それぞれの態様によりスニーカー等について周知著名となったものとすれば、例えば、需要者が引用商標の付されたスニーカーに接した場合には、その態様における著名性も相侯って、尚更、そこに表示された図形が「ピューマ」を示したものであると直ちに認識するものと考えられる。

ところが、四足動物を側面から描いた抽象的なレベルにおいて共通するからといって、周知著名となった商標と具体的な態様が異なった場合にも、すべての四足動物の側面図形をもって、これを「ピューマ」であると認識すると考えることは到底困難と言わざるを得ない。

換言すれば、引用商標それぞれにおいて特定された態様において、同人の商標として周知著名ということができたとしても、四足動物の側面図形商標すべてが引用商標の商標権者の商標として周知著名となったと考えるのは行き過ぎであり、第三者が、飛びかかる四足動物の側面図形を使用したときに直ちにこれを排除し得る効力を有するものと考えることはできない。

すなわち、引用商標が周知著名であるとしても、飛びかかる四足動物の側面図形に関するモチーフ、手法、アイデアをすべて引用商標の商標権者の独占するところとすれば、商標法第2条第1項にいう「商標」の概念を超えた対象を保護することとなり、周知著名商標の保護の基準をも超えるものであり、到底、商標法が目的とする保護とは考え難い。

更に、取消理由通知においては、引用商標の著名性が多分に勘案されているものと考えられるが、商標審査基準第3章十三、第4条第1項第15号、2(ロ)に示されるとおり、その商標が創造商標であるかどうかという点も、第4条第1項第15号の該当性に重要な意味を有するのであって、審理判断において十分に参酌されるべきものと考える。したがって、上述のとおり、引用商標において独創的な部分は、あくまでも具体的なピューマの図案であるにほかならず、四足動物を側面から描いたこと自体に独創性や創造性を有するものではない。

すなわち、創造商標であるかどうかが判断の要素となるのは、一般的な図形であれば誰もが日常的にこれを表現する可能性が高く、自ずから、多くの者によって商標として使用されることとなる。一方、創造商標は、自ずから、同じようなモチーフ、コンセプト、表現を選択する確率が低いものである。したがって、前述のとおり、四足動物を側面で描くというコンセプトないし手法については、極めてありふれた手法ということができるから、何人もこれを表現し、使用できるものである。

また、引用商標が、特にスニーカーについて周知著名であるとしても、スニーカーについては、特定の興味のあるブランドを好む愛好者が極めて多いことは周知の事実であり、引用商標の付されたスニーカーの愛好者も多い。また、スニーカーや被服は、数日で消費される商品とは異なり、比較的長期に愛用するものであるがゆえ、比較的選択性の強い商品ということができる。

一方、人気の高いスニーカーとなると一文字違いのスニーカーなどの侵害品が海外などで出回っているのが事実のようである。それゆえ、引用商標が付されたスニーカーを購入する愛好者は、真正品に対する意識が高く、購入時には、商品及び商標を注意深く確認するのであるから、真正品についての認識やこだわりが高い需要者ということができる。そして、自ずから、その場合の注意力も他の需要者等の注意力よりも高いものとなる。

したがって、本件商標と引用商標における図形との具体的な構成の相違、すなわち、首飾りの有無、頭部や肩の大きさ、尻尾の形状及び大きさ、前後の足の関節などにおける顕著な差異からすれば、四足動物の図形部分のみをみても、具体的構成要素において顕著な相違を有するものと言わざるを得ず、引用商標の付された製品と混同を生ずるおそれは全くないと言わざるを得ず、本件商標の図形構成から引用商標を連想・想起し、引用商標権者の業務を連想するとは到底考えられない。

このように、スニーカーや被服の需要者等、特に引用商標を購入する需要者等はその高い意識ゆえに、真正品の識別に対する高い注意力を十分に有しており、本件商標から四足動物を連想・想起する場合はあっても、引用商標権者のPUMAブランドの製品と取り違えることは先ずあり得ない。

商標法第4条第1項第11号及び第15号に該当するか否かの判断、とりわけ後者の判断については、具体的な取引実情を十分に勘案する必要があるものであるから、具体的な出所混同の存在を前提とせずに、本件商標と引用商標が出所の混同を生ずるおそれがあるものということはできないことは明らかである。

前述のとおり、引用商標がスニーカー等について周知著名であることを敢えて争うものではなく、また、混同を生ずる範囲が著名でない商標に比して広く認定される場合もある。しかし、実際の取引においては、その商標の著名性が高いほどに、需要者がこれに接する機会は増えるということも否定できない。それゆえ、需要者は、引用商標がどのような態様か、どのような商品について使用されているかということを、十分に認識するようになり、他の商品と取り違えたり、出所の混同を生じたりする確率は多分に低くなる。すなわち、商標の著名性が高い程、需要者等が真正品を選ぶ注意力は相当程度に高くなるということができる。

そして、引用商標は、現実に使用された態様について広く認識されるものとなっているのであるから、これと異なる態様で使用された場合には、需要者は、まったく異なる商標と認識し把握し、また、引用商標が使用され認識されるに至った態様と、具体的態様までが細部に至って相当程度に共通する商標であれば、前述のような侵害品と認識する場合もあり、著名商標の付された商品とは異なるものであることを十分に識別することができ、その購入を選択しないこととなる。

したがって、引用商標の著名性が高いと言える程、需要者は、同一のもの、真正なものを購入する意識が高くなり、少しの差異も見逃さないものとなる。その結果、図形商標が著名であるが故に、却って実際には出所の混同を生ずる可能性が低くなるということもできる。

なお、取消理由通知において、本件商標の指定商品と申立人のスポーツ用品、スポーツウェア等とは、商品の材質、需要者、流通系統、販売場所等を共通にする場合があるほか、いずれもファッション性が重視されるなど、密接な関係を有すると指摘している。

しかしながら、PUMA製品を展開する引用商標は、各種のスポーツ関連製品の取扱店や靴店において、スニーカー等について引用商標を付した製品を販売等するものであり、実際にスポーツ関連の製品として取り扱われるばかりか、スポーツ製品としてのその知名度より、通常の靴店で購入する際にもスポーツ製品を製造・販売する申立人の製品として認識し、把握されるものということができる。

一方、本件商標権者は、沖縄において、Tシャツ等の販売を行うものであるところ、本件商標が、沖縄の守り神シーサをモチーフとしたものであることが明らかである。

このような商標態様との関係から考える時、主として沖縄の産品ないし観光土産などとして購入される場合があっても、スポーツ製品のブランドとして把握されるものではない。

したがって、本件商標の付された製品を購入する実際の場面において、本件商標に接した取引者・需要者が、引用商標ないしは申立人を連想、想起することはもちろんのこと、該商品が申立人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と考えることもあり得ないものである。

このような事情からすれば、それぞれの需要者・取引者は、必ずしも一致するものではなく、上述の商標の構成態様の相違点等を併せて考えれば、現実に出所の混同を生ずるおそれは全くないものと言える。

以上において述べたすべての事情を考慮すれば、本件商標が、引用商標と具体的な出所の混同を生ずるおそれのあるものではないことは明らかである。

第6 当審の判断

本件商標と引用商標1との類否について検討するに、両商標は、ともに欧文字とシルエット風に表した動物の跳躍図形からなるものである。

そして、両商標の欧文字部分は、それぞれ観念・称呼が相違すること明らかである。しかしながら、図形部分は、本件商標と引用商標1とは、右から左上方へ跳躍している動物をシルエット風に表してなるところ、動物の首回り、尻尾、脚部の細部において若干の差異が認められるものの跳躍角度、頭部、胴部、前脚部、後脚部、尻尾部を含め全体的に観た場合、シルエットの構成自体は近似しているものというべきである。

次に、本件商標と引用商標について全体観察してみるに、本件商標は、下段に書された文字部分「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字は、その上段に書された「SHI?SA」の文字と比較すると極めて小さく表され、またその構成文字もデザイン化されており、看者をして、この文字自体が何を意味するものなのか直ちに判断することはできないものというべきである。その上段の欧文字「SHI?SA」の文字は、太字で文字全体を横長方形の枠の中一杯に書された様に表されている。そして、この「SHI?SA」の文字部分をシルエット風動物が飛び越すように跳躍してなり、「SHI?SA」の文字部分と図形部分は、一体的にまとまりの良い構成態様となっている。

そうとすると、本件商標を全体的に観察した場合、自他商品識別標識として機能する部分は、「SHI?SA」の文字部分と跳躍した動物のシルエット風図形部分にあるというべきであり、本件商標をその指定商品「Tシャツ,帽子」について使用した場合、「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI?DOG」の文字部分は、付記的部分とみるのが相当である。

他方、引用商標1は、「PUMA」の文字を太字で文字全体を横長方形の枠の中一杯に書された様に表されており、この「PUMA」の文字部分を「ピューマ」と思しきシルエット風動物が飛び越すように跳躍してなるものである。

そうとすれば、本件商標と引用商標1の構成中「SHI?SA」の欧文字及び図形の部分とは、横長方形の枠の中一杯に書された様に表された太字の欧文字の右肩上方に動物図形を配してなる点において構成の特徴を共通にするものであり、しかも、両欧文字部分とも、縦線を太くし横線を細くした書体で表現されているから、両者を対比観察すれば、細部に相違するところあるとしても、全体として外観上、近似するものといわなければならない。

なお、被請求人は、本件商標と引用商標1に表された動物について、本件商標は「シーサー」を、引用商標1は「ピューマ」を描いていることを強調しているが、確かに、これに接する看者は、引用商標1の文字部分「PUMA」からその動物は「ピューマ」であると理解できるものといえるが、本件商標の文字部分「SHI?SA」が沖縄の守り神である「シーサー」を表したものであることを誰もが直ちに理解し認識することは容易ではないというべきである。仮に本件商標の文字部分「SHI?SA」が「シーサー」であることを認識する場合があったとしても、「シーサー」は、「(獅子さんの意)魔よけの一種。沖縄で、瓦屋根にとりつける素朴な焼物の唐獅子像」(広辞苑第5版)を意味するものであり、乙第3号証及び乙第4号証に表示された「シーサー」は、いずれも本件商標の外観とは相違し頭部が異様に大きく表されていることから、取引者、需要者をして、本件商標に描かれたスマートな動物のシルエット図が直ちに「シーサー」を表したものと理解することは容易ではないというべきである。

また、商標権者は、標章の図形要素の細分化ウィーン分類表における補助分類に掲載の「A3.1.21飛び上がっているシリーズIの動物シリーズ」の例をあげ、証拠として乙第1号証及び乙第2号証(枝番を含む)を提出し、引用商標の図形部分は、極めて一般的なものであると主張し、一般的な例として、乙第9号証及び乙第10号証を提出しているが、そもそもウィーン分類は、図形要素の検索ツールであるから、前記、細分類が存在することによって引用商標の図形部分が一般的な表現方法であるとはいえないこと明らかである。

次に、商標権者は、乙第5号証ないし乙第8号証の審判決例をあげているが、これらは、いずれも商標の構成や著名性の程度等において、本件商標と相違するものであって事案を異にするものであるから、これを採用することはできない。

してみれば、本件商標と引用商標1の構成中「SHI?SA」の欧文字及び図形の部分とは、その構成の軌を一にするものであり、共通の印象を看者に与えるものであるから両者を時と所を異にして離隔的に観察した場合には、外観において彼此相紛れるおそれが極めて高い類似の商標と判断するのが相当である。

また、本件商標の指定商品は、引用商標1の指定商品に包含されるものである。

したがって、本件商標の登録は、上述した取消理由により、商標法第4条第1項第11号に違反してされたと認められるから、申立人のその余の申立理由について判断するまでもなく、同法第43条の3第2項の規定に基づき、取り消すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

        平成20年 7月 2日